2年前の七夕の日の夕方、私は会社の窓からぼんやりと空を眺めていました。どんよりとした雲が空を覆っており、雨こそ降っていないものの天の川は期待できないのは明白でした。しばらくして終業時刻になり、荒れ模様の天気を心配して、みんな足早に退社していきます。私もこの日は残業を控えて帰ることにしました。
傘をさして、水溜りを避けて歩きつつ、なんとなく上を向いたときに、ふとある考えが脳裏をよぎりました。
「あの雲を越えてみたら、星空が見えるかな?」
私は家へついてすぐ自動車に乗りました。ガソリンは十分、そのまま走り出します。目的地は「雲を突き抜ける高原」。
幹線道路を外れると道がだんだんと細くなりました。後方に住宅街の灯りが遠ざかっていくのをバックミラーで確認しつつ、漆黒に包まれた山岳地帯へ向かっていきます。雲より高い位置へ到達するには、数千m級の高地を目指さなければなりません。そして私はその入り口に到着することになりました。
天気は相変わらずの荒れ模様。これから進む道はおそらく悪路・・・。
次の日も会社、到着した時点で21時過ぎ・・・。
それでも私は高原を目指すことにしました。
車幅は一車線。山肌を縫うような曲線が続きます。ギアを2ndにし、慎重に登っていきます。徐々に霧が辺りを包み始め、視界がどんどんと悪くなってきます。このとき、私は雲の中にいるのだと実感しました。
5m先、3m先、2m先・・
ヘッドライトの光が拡散し、外は妙に明るく感じるのですが、目の前はただ白いものがぼやっと広がっているだけで、あとどのくらい先に高原があるのか、あるいは高原が本当にあるのか、そんな不安を抱きつつもアクセルを踏み続けました。
40分くらいたった頃でしょうか、それまで一様に白かった世界が薄くなり、徐々に周囲が認識できるようになってきました。ここで私はある確信を持ちます。
雲を突き抜けられる!
ほどなくして私は自分の居場所がわかりました。今までとは違い、林がなかったのです。
そうです。
「雲を突き抜ける高原」に着いたのです!
自動車を停め、外へ出てみると白々と強風に揺れる草花の影が見えました。上を見ると物凄い勢いで流れる雲を透かして、お月様が見えました。そして、近くに丘のようなものがあり、そこが頂上だということがわかりました。
私はその丘へ向かうことにしました。
そこから先は自動車は通れそうになかったので歩くことにしました。ですが、半袖でしたので高地の強風が身にしみて大変寒く、足元はドロドロで、時々陰ってしまう月明りだけが頼りという、あまりにも杜撰な有様・・・。
それでもなんとか頂上へ辿り着きました。
私は空を見上げます。
雲に隠れて夜空が見えません。
更に時間もだいぶ経過しており、雲の厚みがどんどん増してきてます。
月灯りも遮蔽され、どんどん辺りは暗闇に包まれてきます。
風の音、つんざく寒さ・・・
じっと耐えて上を見つめます。雲の行き交いを何分も何分も・・・
そして一瞬の出来事が起こりました。
二つの雲の割れ目から散りばめられた星々が見えたのです!
本当に数秒のことでしたが、天の川をみることができました!
息を飲むとはこの事をいうのでしょうね。。
もう一度と思いつつしばらくそこにいましたが、雲の割れ目ができてもあさっての方向で、既に夜も更けていましたので、その場を後にすることにしました。
丘を降りる帰り道、暗闇の中で方向がわからなくなり、危うく遭難しそうになりましたが、登って来たときの足跡を見つけて、なんとか車まで戻ることができました。高原に着いた時間よりも、霧は濃くなっていて、下り道は登りよりも時間をかけて慎重に降りていきました。
霧が晴れた山のふもとまで戻ったとき、ほっとしたのと同時に、なにか大切な宝物を手に入れたような気分になりました。
次の日、私は通常通り出社し、またぼんやりと窓の外を眺めていました。
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